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本の中のすぎなみ 2016年
12月
九月、東京の路上で
加藤直樹/著 ころから
11月
涙の川を渉るとき 遠藤 実自伝
遠藤 実/著 日本経済新聞出版社
その遠藤 実氏が、平成18年6月から1ヶ月間、日本経済新聞に「私の履歴書」を連載し、さらに加筆してまとめたものが本書です。
この本で遠藤氏は戦争を経験したつらい少年時代のこと、上京して杉並区で暮らしはじめ、演歌師をしながら独学で作曲していた時代のこと、そして徐々にヒット曲を生み出し成功を収めていくまでのことを雄弁に語っています。
そのなかで、「西荻窪のラーメン屋さんの思い出」など、幾たびか杉並区の風景が描かれています。
様々な思いの回想がこの本では綴られていますが、なぜかどんな場面でも遠藤さんの温かさが感じられます。
若い方に、読んでもらうことを念頭に書かれているそうです。
是非、手にとられてはいかがでしょうか。(下井草図書館作成)
10月
荻窪家族プロジェクト物語 住む人・使う人・地域の人みんなでつくり多世代で暮らす新たな住まい方の提案
荻窪家族プロジェクト/編著 萬書房
荻窪駅から歩いて少しの閑静な住宅街にある「荻窪家族レジデンス」。それは、広い共有スペースで地域の人々や多世代の入居者と自由に交流でき、家庭や学校・職場に次ぐ「第三の居場所」となってくれる――そんな、今までにないタイプの集合住宅として、2015年にスタートしました。本書は、その構想が実現するまでのプロセスを記録したものです。執筆者は、プロジェクト代表の瑠璃川正子さんを始め、建築家、老年社会学者、看護師、入居者、学生など、実にさまざま。両親の介護をきっかけに瑠璃川さんが思い描いた<豊かな高齢期の住まい>についてのビジョンに、それら多くの人々が惹きつけられ、一つの「場」を作り上げていった様子が、興奮と共に伝わってきます。果敢に学び、ネットワークを築き、皆が乗り込める「魔法の絨毯」を広げていった瑠璃川さんの行動力にも、脱帽せずにはいられません。高齢者も育児世代も若者も、ともすれば孤立しがちな現在、「自分も何かしてみたい!」と、勇気が湧いてくる一冊です。
(中央図書館作成)
9月
隠花平原
松本清張/著 新潮社
8月
阿佐ヶ谷ラプソディ
又井健太/著 角川春樹事務所
7月
放送中です!にしおぎ街角ラジオ(メディアワークス文庫)
岬鷺宮/著 株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス
『東京都杉並区。西荻窪駅北口を出て、駅前広場を抜けた先。伏見通り商店街の中ほど』に作中の喫茶店『フレクエンシー』があるという設定で、西荻関係者なら、この文章だけでもわくわくしてきませんか。(西荻図書館作成)
6月
カツラ美容室別室
山崎ナオコーラ/著 河出書房新社
そんな高円寺に惹かれて引っ越してきたオレとカツラ美容室で知り合った美容師エリとの微妙な関係を、周囲の人々を絡めながら淡々と描いた作品。
純情商店街を抜けて庚申通りの中程にある美容室とか、パル商店街からルック商店街を通って曲がった先のアパートとか、高円寺を知る人にとってはリアルに情景が浮かび、主人公と一緒に街を歩いている気がしてくる。
山崎ナオコーラさんは『指先からソーダ』というエッセイ集の中で、友人と高円寺を訪れ、「私は、高円寺の街が、鼻血が出るほど好きになりました」と書いている。(成田図書館作成)
5月
幻の朱い実 (上・下)
石井桃子/著 岩波書店
舞台は昭和初期。著者の分身である明子が、休日ごとに楽しみにしていたのは、「気ままなひとり散歩」。
ある日降り立った「西荻」から「荻窪」への散歩の途中、美しい烏瓜の朱い実が実った民家に惹きつけられていく。
その家は、明子の女子大時代の先輩蕗子の家だった。偶然の再開を果たす二人。堅実的な明子と、結核を患っていたが自由奔放な蕗子。正反対な二人であったがすぐに意気投合し、その後明子は休みごとに荻窪の蕗子の家を訪ね、親交を深めていく。
著者がこの執筆を始めたのが79歳の時。6年の歳月をかけて書き上げている。文中には、病に伏している蕗子に明子が「クマのプーさん」を翻訳し、喜ばせている件も描かれている。
彼女達の日常を通して、当時の杉並の風景を垣間見ることができる。(宮前図書館作成)
4月
あの頃のこと
吉沢久子/著 清流出版
この日記を読むと、東京での空襲が日々激しさを増す中、いつ訪れるかわからない死と隣り合わせの状況でも、日常的に勤めに出て働いて、時として皆で集まって飲んだり食べたりという、当時の人々の姿が描かれているのが印象的で、心に残ります。
また、東京大空襲時の記述では、「外に出たらまっすぐ頭上に見える一機が火を噴いて落ちてきた。高円寺あたりに落ちたのか、火事になったのが見える。」などその時の杉並区内の様子が、実体験として生々しく綴られていています。
その他、阿佐ヶ谷駅前商店街の強制疎開のことやご近所に住んでいた谷川徹三氏夫妻との交流のことなども書かれてあり、非常に興味深く読み進めることのできる日記だと思います。
著者が、「あとがき」で書いているように、あの頃どんな暮らしがあったのか、毎日の生活を実際に記した事実こそが、戦争を知らない人たちにとっては、戦争とは何かを考えるための参考になるのではないでしょうか。(高円寺図書館作成)
3月
のらくろ一代記
田河水泡/著 高見澤潤子/著 講談社
本人が生まれてから大正12年関東大震災までを書き、その後を妻が書き継ぎました。
「のらくろ」は『少年倶楽部』の編集長が、田河が軍隊の経験があることを知り「犬に兵隊ごっこをやらせてみたら」と持ちかけ、昭和6年に同誌の連載で始まりました。子どもの好きな犬を活躍させたことや親しみがあった兵隊さんの生活を描いたことが子どもたちに受け、たちまち主人公「野良犬黒吉」は人気者となりました。二等卒で始まった連載が進級を続け、学校中が「のらくろ」に沸き返るほどのブームとなり、それは太平洋戦争直前まで11年間続いたということです。
著者は昭和8年、34歳の時に荻窪に移り住み、初めての持ち家であり広い庭で園芸や野菜作りを楽しんだといいます。この頃、長谷川町子が弟子入りして、師がその才能を見出し、あの名作「サザエさん」が誕生することとなります。
以降下高井戸に転居し、昭和44年、70歳の時までの36年間を杉並で活動しました。(柿木図書館作成)
2月
本と暮らせば
出久根達郎/著 草思社
出久根さんは茨城県出身で、上京して月島の古書店に勤め、1973年に杉並区高円寺で「芳雅堂」という古書店を開業された方です。
作家としても活動し93年には「佃島ふたり書房」で直木賞を受賞。
現在は読売新聞「人生案内」のコーナーで回答者を務められています。
コラムには、小さな頃から本に囲まれて過ごした著者の古書に対する愛情と、果てしない好奇心と探究心が詰まっています。
出久根さんの、ふと感じた疑問をそのままにせず、古書を広く深く読むことで答えにたどり着くその姿勢に驚きです。
興味深いタイトルがずらりと並び、初めて耳にする作家も数多く登場します。
新刊も、もちろん気になるけれど、古書という世界に触れてみたくなる一冊です。
取り上げられた本を図書館で実際に探して読んでみるのも面白いかもしれません。(永福図書館作成)
1月
あの家に暮らす四人の女
三浦しをん/著 中央公論新社
古びた洋館で共同生活を送る4人の女たち。―働いたことがない鶴代、娘で刺繍作家の佐知、その友人で会社員の雪乃、さらに雪乃の後輩の多恵美の生活が描かれる。彼女たちの名前は、お察しのとおり船場の4姉妹が登場する谷崎の『細雪』から着想を得たという。
ただ、作者の三浦しをんは執筆に際し、『細雪』の世界観にはそれほどこだわらなかったそう。むしろ日々の小さな(だが、当人たちにとってはそこそこ心をかき乱される)雑事を乗り越えたり乗り越えなかったりしつつ、ひと区切りがつけば4人でお茶を飲む。ベタベタする仲ではないが、顔を見ればなんとなくホッとして…。そんな関係性にこそ『細雪』との共通点を託したようなのだ。
彼女たちが南阿佐ヶ谷から地下鉄に乗って、東高円寺の温水プールへと向かうくだりは、杉並区民なら親しみを覚えるはず。洋館住まいという設定がそれほど奇異に感じられないのも、古い建物が大切にされている杉並区ならではだろう。(今川図書館作成)
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