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その可能性はすでに考えた

井上真偽/著  講談社

 

杉並区南阿佐ヶ谷で探偵事務所を営む上苙丞と上苙に多額の金を貸しているフーリン。二人が話していると若い女性が訪れる。その女性・渡良瀬莉世は自分が人を殺したのかどうか推理してほしいと話し、幼い頃の記憶を語り始めた。

莉世は小学校に入学した直後、母親に連れて行かれ、新宗教団体「血の贖い」の村で集団生活を始めた。教祖と信者あわせて33人が暮らすその村は、山奥の秘境であり、脱出が極めて困難な刑務所のような場所だった。村に暮らす同じ信者の少年・堂仁と一緒に仔豚の世話をしながら、「脱出するときは仔豚も一緒に連れていこう」などと話していた。

そんな中、村を地震が襲う。地震後、滝と川が枯れ、更に教祖は村の唯一の出入り口である〈洞門〉を爆破し塞いでしまう。〈禊〉が行われ、信者全員の首を教祖が斬り回る姿を目撃し、自分の首が斬られる直前に堂仁に助け出された莉世はやがて気を失い、目覚めたときには祠にいた。その眼前には堂仁の生首と胴体が転がっていた。莉世と堂仁以外の信者は全員外から施錠された拝殿に閉じ込められ、また拝殿の閂は莉世には重くて動かせなかった。これらの状況から自分が堂仁を殺してしまったのではないか、と考えるようになったという莉世。

しかし一方で、堂仁の首を斬ったギロチンの刃も堂仁の胴体も重く、祠まで運べたはずはないという。堂仁は首を斬られた後、莉世を抱いて祠まで運んだのではないか。祠まで行く途中、堂仁の首を抱いていたような気がすると話す莉世に、上苙は〈奇蹟〉に違いない、人知の及ぶあらゆる可能性を否定し〈奇蹟〉が成立することを証明すると言い放つ。全ての可能性を否定することは不可能だという大門老人や、フーリンの知人である中国人美女リーシー、元弟子である少年・八ツ星が提示した仮説をことごとく反証していく上苙だったが…。

理詰めの推理合戦の連続で、頭を使う読み応えのある小説となっています。事件の真相を是非読んで確かめていただければ幸いです。

(柿木図書館作成)

 

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