5月の本の中のすぎなみ

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絵と写真で読む西永福の街並み

杉浦賢伍/著

京王電鉄井の頭線西永福駅横に、線路をまたいで南北に伸びる西永福商店街。その井の頭通り寄りの一角に「大江戸そば」を営む

杉浦賢伍氏が制作した地域史。理性寺や永福小学校、井の頭線といった、「永福といえばこれ」という6項目に絞り、

その変遷を地図、文書、写真などの史料調査や古老から聞き取りした内容が掲載されています。
町名の由来ともなった永福寺村の古地図、商店街のいまむかし、昔の小学校の入学式のようす、1956年の西永福の駅舎など、

我々杉並区民だからこそ、懐かしさを感じたり、知って驚き親近感を覚える物事が目白押し。
特筆すべきは何といってもその調査量!数キロ四方のうちとはいえ、これだけの情報を独自に収集して、

街の歴史を一冊の書物に明らかにするのは並大抵の労力ではなかったでしょう。
商店街他店のみなさんとの座談会の模様も注目ポイント。長年風景の移り変わりを目にしてきた生の声からは、

街の息吹を感じ取ることができます。
永福図書館も2025年に創立60周年、移転5周年を迎えます。その間に周囲ではどんな変化があったのか、

ぜひ本書を開いてタイムトラベルをしてみてください。
(永福図書館作成)

4月の本の中のすぎなみ

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ベージュ

谷川 俊太郎/著  新潮社(新潮文庫)

2024年11月、日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんが旅立たれました。谷川さんは杉並で多くの時間を過ごし、代表作「かっぱ」をはじめ、数多の詩を世に送り出したことで知られています。かろやかな響きと、囁きあうような言葉で人々の心に語りかける。そんな谷川さんが、生涯向き合ってきた不変のテーマ「生」と「死」。

『ベージュ』は晩年、谷川さんの米寿の年に刊行されました。素朴でやさしく、それでいて人肌や温もりを想起させるような曖昧な色合い。タイトルからもその人柄がうかがえる本書は、谷川さん自らが選出した未収録作に書き下ろしをくわえた三十一篇からなります。


ここではない うん ここではないな そこかもしれないけど どうかな (……)
「場」がいきなりことばごときえうせて うん ときがほどけてうたのしらべになったとき
わたしはもう いきてはいなかった (『ベージュ』より引用)


ご紹介したのは、本書のラストを締めくくる詩、「どこ?」の一節。
あらゆるものの誕生と最期を彷彿とさせる谷川俊太郎、最後の詩集です。(中央図書館作成)

 

3月の本の中のすぎなみ

世界一美しい団地図鑑

世界一美しい団地図鑑

志岐祐一/編・著・写真  エクスナレッジ

昭和の半ば、あちこちに建てられた集合住宅のいわゆる“団地”にはどんなイメージがありますか?
同じような形の建物がたくさん並んでいたり、4階や5階建てなのにエレベータがなかったり。住みづらい印象もありますが、最近ではその優れたデザイン性が見直され、築年数の古い団地を価格を抑えて購入し、リノベーションをして住む方もいるそうです。
本書では傑作団地のひとつとして阿佐ヶ谷住宅が紹介されています。
阿佐ヶ谷住宅は杉並区の成田東に位置し、日本住宅公団が整備しました。1958年から入居が始まった350戸の集合住宅で「奇跡の団地」と言われていました。
駅から比較的近い場所なのに、建物と建物の間には草木や花が残され、自然やゆとりある空間だったので「場所の奇跡」。分譲した日本住宅公団は設立数年でしたが、その若い組織を受け入れた社会があった「時代の奇跡」。そして設計などに携わった人は若手が多かった「人の奇跡」です。阿佐ヶ谷住宅には一般的な中層棟もありましたが、2階建てのテラスハウスがあり、設計者の名前から前川テラスとも呼ばれていました。「団地の理想郷」ともいわれる阿佐ヶ谷住宅でしたが、惜しまれつつ取り壊しになりました。(今川図書館作成)

 

2月の本の中のすぎなみ

銀座に住むのはまだ早い

銀座に住むのはまだ早い

小野寺史宜/著  柏書房

「東京二十三区に住みたい」というのが、昔からの著者の希望。なかでも「一番住みたいのは中央区銀座」というのが著者の願望。しかし現実は厳しくタイトルの『銀座に住むのはまだ早い』とあいなる。
著者が現在住んでいる千葉のワンルームマンションは家賃5万円弱(フロ・トイレ付)。だとすれば、それと同じ条件で都内23区に住めないものか?というわけで23区の「物件」を実際に探索してみたというのが本書の内容である。
著者は23区のすべてを探索しているのだが、杉並区では西荻窪(西荻)を訪れている。「第三回 杉並区 静かに元気な西荻窪」(本書35頁~43頁)
まず訪れた場所は「西荻図書館」。訪問当時、西荻図書館には著者の本は1冊しかなかった。「僕レベルならそんなもの」と冷静に自己分析しているのが微笑ましい。ちなみに、今では5冊所蔵しているようだ(2025年1月6日現在)。
図書館のあとは「桃井原っぱ公園」「善福寺公園」などを訪問。途中、とんかつを食べ、最後に喫茶店で一服して西荻窪の探索を終了している。
個人商店がいまなお数多く営業している西荻窪を、著者は「穏やかな活気に満ちた町。好き。」と総括している。(方南図書館作成)

 

1月の本の中のすぎなみ

ちゃっかり温泉

ちゃっかり温泉

久住昌之/著 和泉晴紀/画 カンゼン

マンガ「孤独のグルメ」の原作者が語る「ちゃっかり+温泉」エッセイ。
杉並区については、第二話で、高井戸駅近くの温泉施設「高井戸温泉 美しの湯」と、荻窪駅近くの「なごみの湯」について、取り上げられています。
 
三鷹市在住の作者が、吉祥寺にある仕事場から神田川沿いの道を歩いて「高井戸温泉 美しの湯」へ向かう様子は、読者にとって自分が散歩しているかように生き生きと描かれていて、目の前にその風景が浮かびます。
仕事や締切の合間に、ちゃっかり昼間から温泉と食事を楽しむ作者の姿は、「孤独のグルメ」の主人公「井之頭五郎」を彷彿とさせます。温泉利用者の生態や食事を堪能するさまを、彼独特の人間観察力で、ユーモアたっぷりに表現されていて楽しめます。
 
本書では、杉並区以外の温泉も数多く紹介され、どの温泉も魅力的で行ってみたくなること請け合い。街の散策ガイドとしての利用もお薦めです。
めっきり寒さが厳しくなったこの時期、わざわざ遠くの温泉まで行かなくても、フラッと出かけた近所の温泉で温まりたい!そう思わせる一冊です。(高井戸図書館作成)

 

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