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本の中のすぎなみ 2012年

12月

サマーバケーション EP

サマーバケーション EP

古川日出男/著  文藝春秋

この小説は、生まれつき人の顔が認識できない「僕」が、道中で偶然出会った人々とともに、井の頭公園にある神田川の源流から川沿いを歩いて、川の終わり、 つまり海を目指す物語です。色彩・匂い・音・温度に敏感な「僕」の不思議な一人称で書かれているのが特徴的で、途中で増えたり減ったりする「僕たち」も、 それぞれが個性的な物語をもっています。
実在する地名・駅名、橋や公園なども多数出てくるので、「僕たち」が通ったルートを再現することも可能です。杉並区では、宮下橋公園や久我山駅、高井戸駅、杉並清掃工場、永福中央公園、方南橋、善福寺川などが登場します。
井の頭公園のある三鷹市から始まり、杉並区・中野区・新宿区・豊島区・文京区・千代田区・台東区・中央区と続く、一日ちょっとの「冒険」は、日常への新鮮 な驚きで満ちています。寒くて外に出るのが億劫な季節ですが、身近な地域を「冒険」してみるのはいかがでしょうか。「僕たち」の絶妙な距離感や会話が爽や かな印象を残し、東京を歩きたい、冒険したい、という気持ちにさせてくれる一冊です。

11月

無銭優雅

無銭優雅

山田詠美/著  幻冬舎

慈雨(じう)と、栄(さかえ)は、四十代の恋人同士。彼らは、十代の若者も呆れるような二人の世界――愚にもつかない戯れと、互いへの甘すぎる許しで成り立つ世界――に住んでいる。意味のないことで埋め尽くされていればいるほど濃度を増す「日常」を享受できるのは、年齢を重ねたものの特権だ。二人はそう信じ、毎日を「心中する前の日の心持ち」で生きている。
彼らが住んでいるのは、西荻窪駅の程近く。片割れの栄が極度の乗り物酔い体質であるために、作品の舞台は、ごく狭い。けれど自転車で行ける範囲内でも、彼らの世界は満ち足りている。二人がいれば、五日市街道は「アヴェニュー オブ アメリカ」、善福寺公園は「セントラルパーク」なのである(お隣の吉祥寺で評判のメンチカツを頬張る場面も登場する)。
本書には、山田詠美初期作品にしばしば登場した過激な性描写や、思春期特有の鋭利な感性の気配はまったくない。しかし、「恋愛の激しさ」だけでなく、「穏やかさ」にもこれほど豊かな表現が与えられるものなのか、と、読むほどに驚かされる一冊。

10月

木もれ陽の街で

木もれ陽の街で

諸田玲子/著  文芸春秋

この本の舞台は、昭和20年代半ばの荻窪です。主人公は、ここに居を構える中流階級の小瀬家の長女・公子。彼女は、丸の内の大手商社の医務室に勤務する看護師です。彼女の周囲で起こる様々な事件や恋愛事情、そして、彼女自身の恋模様を通して、「昭和」が丹念に描かれています。
著者の諸田玲子氏は、向田邦子氏、橋田壽賀子氏、山田洋次氏などの台本のノベライズや翻訳等を手がけた後、作家活動に入りました。時代小説を多く執筆しており、初めての現代小説が本書となります。
本書では全般にわたって荻窪の町の描写が多く、ストーリーのあちらこちらから、当時の荻窪の空気を感じ取れます。また、与謝野鉄幹・晶子夫妻が居住していた南荻窪の邸宅(現:与謝野公園)も冒頭から登場し、与謝野晶子の和歌も印象的に引用されます。
「昭和」の人間模様も当時の荻窪の空気もリアルに表現されている、珠玉の一冊です。

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