[ページの先頭。]

[本文へジャンプ。]

[ここから本文です。]

本の中のすぎなみ 2021年

12月

逢わばや見ばや 完結編

逢わばや見ばや 完結編

出久根 達郎/著  講談社

 本書は『逢わばや見ばや』『二十歳のあとさき』に続く、昭和48年(1973年)に高円寺で古本屋「芳雅堂」を開業してから、平成18年(2006年)に至るまでの出久根氏の自伝である。
 筆者はなぜ、独立開業の地に高円寺を選んだのであろうか。
古本屋の立地条件として大学生が多いこと、大きな新刊書店があることなどを挙げられていたが、一番の理由は高円寺の雰囲気が第二の故郷である月島に似ていると感じたことであったそうだ。
 なぜ高円寺が月島に似ていると思われたのかは、ちゃんと根拠があったところが面白い(ここは本書を読んでいただけると良くわかる)。魚屋、乾物屋、佃煮屋、荒物屋などがあった下町情緒豊かな時代の中で、「芳雅堂」に関わっていた人達が筆者の温かい眼差しを通して人情味豊かに描かれており、当時の高円寺の街の雰囲気を、本書を通して味わうことができる。
 筆者は小説家になられても「古本屋は天職である」と言い切っており、古本屋業に向き合う真摯な姿、書物に対する熱い想いが本書の随所に見られる。あとがき(p.258)には「自伝には違いないが、何しろ小説家の筆であるから、差し障りのない嘘が多分に施されている。筆者の意図は、古本屋という、時代から隔絶した独特の商売から、戦後日本の五十年を眺めてみることにあった。」と記されている。
 「差し障りのない嘘」とは果たしてどの部分がそうなのか・・・。今、一度読み返してみたくなる好編である。(柿木図書館)

11月

高円寺 東京新女子街

高円寺 東京新女子街

三浦展+SML  洋泉社

高円寺のこと、あなたはどれだけ知っていますか?
昭和初期に人口が急増した理由は?個性的な建築が多いのはなぜ?親子連れに住みやすいと評価されるようになった経緯は?など、高円寺に関する疑問の数々が見事に解き明かされます。
筆者は高円寺を人の出会い・つながりで生きられる縁が生まれやすい街「好縁寺」と表現し、その魅力を都市、建築、店、人から分析しています。
都市分析や統計の読み取りが的確かつわかりやすい、ゆえに歴史や文化が手に取るようにわかる。高円寺がこんなにも奥が深い街なのかと驚くこと間違いありません。
巻頭の写真コレクションもお見逃しなく!女子であれば、いえ女子でなくても、これを見れば足を運んでみたくなる店が目白押しです(永福図書館作成)。

10月

雪子さんの足音

雪子さんの足音

木村 紅美/著  講談社

  1990年代半ばの高円寺。「月光荘」という小さなアパートに住む男子大学生と隣人のOL、そして老女の大家さんが、それぞれに孤独や不安を抱えながらも嘘や過干渉でしか表現できずにお互いを傷つけてしまう、奇妙で屈折した人間関係を描いた物語です。2019年には映画にもなりました。
 アパートがある五日市街道の向こうから、商店街、JR高円寺駅周辺、北口の青果店やライブハウスなど、高円寺らしい情景が詳細に描写されています。まだ携帯電話もPCも普及していない頃の、固定電話や手紙、ワープロが登場するストーリーは、読む人の年代によっては懐かしい学生時代を思い起こさせるかも。
 物語では、20年後の大家さんの孤独死によって「月光荘」は終わりを迎えるのですが、高円寺の路地を歩くと今でも実際に「○○荘」と名のついた古いアパートに出会うことがあります。この作品を読んだ後は「あの部屋のひとつひとつにも、住人たちの物語が隠されているのかな」なんて思ってしまいます。(中央図書館作成)

9月

「小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常」

「小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常」

辻山 良雄  幻冬舎

荻窪駅から青梅街道を西荻窪方面へ歩いていくと「Title」という個人書店があります。地元の方はもちろん、本(屋)好きが遠方から足を運ぶ特別な存在感がある書店です。
この本はTitle店主・辻山良雄さんが、店での日々のものこと、これまで出会った人や場所で思ったこと、そしてコロナ禍の書店について、短い文章で綴ったものをまとめたものです。 辻山さんのTitleでの日々を物語のように楽しむこともできます。また、日々暮らす中で誰もが思うことが語られているので、さりげなく共感も強くさせます。そこには店主の静かに物事を見る眼差しがあり、どこか文学的な匂いを感じる言葉と文章によって、誰の心にも響くものがあるように思います。
店を訪れる地元のお客さんの姿がとても印象的で、齋藤陽道さんによる店内や周辺の写真も織り込まれており、荻窪のまちの様子も見ることができる一冊です(今川図書館作成)。

8月

水声

水声

川上弘美  文藝春秋

地下鉄サリン事件をきっかけに主人公・都は、母親の死後に空き家となっていた杉並の生家で弟・陵と一緒に暮らし始める。そして、古い家財を片付け終わった頃から母親の夢を見るようになり…。
どこか普通の家庭とは違っていた幼少期。家族の中心的存在であった母が癌になり看病をした日々。大震災後の現在。それぞれの時代を行き来しながら静かに物語は進み、家族の微妙な秘密が明らかにされていきます。
主人公たちが子供時代を過ごしたのはまだ田畑が点在し、土埃の匂いがする高度経済成長期の杉並。工事中の環状線、緑色の電車、駅前の原っぱなど、同じくこの地で子供時代を過ごした著者の川上弘美さんが目にしていたであろう光景が、物語の背景として描かれています。
生と死、家族、そして男と女。独創的な世界観で流れるように紡がれた文章により、複雑なテーマでありながら、重さを感じることなく読み進めていける作品です(方南図書館作成)。

7月

東京百景

東京百景

又吉直樹 著  KADOKAWA

本書は観光本ではない。お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹が上京してからの思い出と風景について100編にわたって綴られるエッセイ集だ。
初めに住んだのは杉並区の隣、三鷹市。そこから中央線沿線や杉並区周辺での出来事が数作記されている。20歳で高円寺に居を移した話では『人情と奇妙奇天烈を標榜する街』と称し、そこで暮らした日々はアパートの取り壊しと共に切なく語られている。
若手芸人の未来に対する不安や期待を繊細に描いている。映像化された『火花』や『劇場』の元となったようなエピソードもあるのでこれと併せて読んでみるとより理解が深まるかもしれない。
1ページで終わる話もあれば数ページにわたって書かれる話もある。さらに、現実なのか空想なのか分からないショートショートのような話もあり、読書が苦手な人も飽きずに読み進められる一作である。住んでいる人では気が付かない景色・感じられない情緒を上京した人の目線で切り取られているので読了後は本書を片手に彼の感じた東京を巡礼したくなることだろう(高井戸図書館作成)。

6月

神様の裏の顔

神様の裏の顔

藤崎 翔  KADOKAWA

杉並区を舞台とする小説は数多くあります。その中から横溝正史ミステリ大賞受賞作の『神様の裏の顔』を紹介します。
舞台は阿佐谷にある葬儀会場。大勢の弔問客が通夜に集まり誰もが号泣している。故人の坪井誠造は皆に慕われ尊敬される神様のような元教師。参列者たちはそれぞれ泣きながら、故人との思い出を回想するのだが、そこにふとした疑惑が浮かび上がる。
「もしかしたらあの人は、とんでもない凶悪犯罪者だったのでは?」
それまで縁のなかった参列者たちの思い出話が少しずつ絡まり、編み込まれ、そして…。テンポの良さとスピード感、意外な展開、泣いて笑って驚いて、そして色々考えさせられます。
最初から最後まで阿佐谷という場所にある葬儀会場の中でストーリーが展開し、まるで舞台劇を見ているように引き込まれて行きます。また、作品の中では「中野区沼袋」や「練馬区氷川台」などの都内の地名も登場し、物語に親近感を抱くことでしょう(下井草図書館作成)。

5月

愛される街

愛される街

三浦展  而立書房

愛される街とはどんな街でしょうか。著者は自らも住む西荻窪の魅力に、個人経営の店が多いことをあげています。店主のこだわりがそろっている店を通じて、人とのつながりが生まれやすいからです。近年はこの「人とのつながり」が、モノの豊かさよりも求められており、まちづくりを考えるうえで重要になってきています。1章では銀座、渋谷、下町、上海といった都市について、2章では都市と女性の活躍、3章では高齢化社会のケアやシェアについて、興味深い事例とともに紹介されています。西荻窪にある「okatteにしおぎ」もその事例のひとつ。シェアハウスであり、コミュニティキッチンであるこの場所は、食事会やワークショップの開催、調理したものの販売など「人がつながる場所」として愛されています。従来の「住みたい街ランキング」には反映されない住み心地の良さとは何なのか。これからどんな街に住みたいか。人とつながることが難しくなっている今、改めて考えさせてくれる一冊です(南荻窪図書館作成)。

4月

阿佐ヶ谷アタリデ大ザケノンダ 文士の町のいまむかし

阿佐ヶ谷アタリデ大ザケノンダ 文士の町のいまむかし

青柳いづみこ/著  平凡社

 タイトルは、漢詩を井伏鱒二氏が訳した一節です。戦後、井伏氏を中心とした文士たちの会「阿佐ヶ谷会」の面々は、まさに阿佐ヶ谷あたりで大酒を飲んでいました。
 著者は、阿佐ヶ谷在住のピアニストでエッセイストとしても活躍されており、阿佐ヶ谷会の文士、フランス文学者青柳瑞穂氏の孫にあたります。阿佐ヶ谷会は、阿佐ヶ谷の居酒屋だけでなく、青柳氏の自宅も会場として、宴会を開いていたそうです。
 本書では、祖父青柳瑞穂氏の思い出や阿佐ヶ谷会の文士たちのエピソードとともに、昭和30年代から現代までの阿佐ヶ谷の町や商店街の様子、ゆかりの人物たちが描かれています。今はもうない店もたくさん登場し、阿佐ヶ谷を知る人にとっては懐かしく、様々な思い出もよみがえってくるのではないでしょうか。
 著者もまた、阿佐ヶ谷で友人たちと酒を酌み交わし語り合い、「新阿佐ヶ谷会」も発足します。阿佐ヶ谷という町の魅力が、時代を超えて今も人と人とのつながりを生みだしているようです。
 地図も掲載されているので、読んだ後には阿佐ヶ谷の町を訪れ、商店街を歩いてみませんか。(中央図書館作成)

3月

杉並区の昭和 写真アルバム

杉並区の昭和 写真アルバム

  いき出版

 2019年5月、令和の時代が始まろうとする時に出版された本です。戦後から現在の令和の時代へと続く日本の姿を形造っていくのに大きな役割を果たした昭和という時代を残された貴重な写真で振り返っています。
 この本では、杉並区内で記録された写真を昭和の時代を象徴するテーマ別に整理し、解説を付けて掲載しています。
 昭和7年に杉並区が発足した頃の「戦前・戦中の風景と暮らし」、農村風景の残る杉並区がオリンピックを機に都市型住宅地へと大きく変貌を遂げる戦後「変わりゆく風景と街角」、その他テーマ別に「暮らしのスケッチ」、「ふるさとの祭りと年中行事」、「交通の発展」「民主主義教育のあゆみ」などに分けて、昭和の懐かしい写真が集められています。また、最後にはコラムとして「戦後のこどもたち」を特集し、昭和の子どもたちの学校や家庭での生活写真、遊んでいる写真が多数掲載されていて、見ているだけでほのぼのとした気持ちになります。
 杉並区の歴史を、文章だけではなく、区民から提供された数多くの写真で、いきいきとリアルに感じ取ることができる本だと思います。(西荻図書館作成)

2月

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間

先崎 学/著  文藝春秋

藤井フィーバーに将棋界が盛り上がっていた頃、病気療養につき休場を余儀なくされた棋士がいました。棋士・先崎学さん。休場当時の段位は九段、病名は「うつ病」です。
休んでも取れない倦怠感、不眠、突然襲ってくる自殺衝動といった数々の症状を周囲と支え合いながらむきあい、少しずつ乗り越えていった一年間。闘病記の中では、西荻窪駅近くの囲碁・将棋スペース「棋樂」での対局を通して復帰への道を歩んでゆく様子が当時の心情と共に描かれています。また、療養の過程で「自宅から歩いて二十分くらいのところにある図書館」に通って雑誌や本を読んだとの記述もあり、どの図書館だったのだろうと想像してしまいます。
うつ病発症から回復までの日々を先崎棋士本人が淡々と、且つ細やかに綴った一冊です(中央図書館作成)。

1月

われ巣鴨に出頭せず

われ巣鴨に出頭せず

工藤 美代子/著  日本経済新聞社

  日本政治史上において、かつて数々の重要な政策会議が行われた場所が荻窪にあるのをご存知でしょうか。昭和12年から内閣総理大臣を3度務めた政治家・近衛文麿が邸宅とした「荻外荘」です。近衞氏の伝記となる本書『われ巣鴨に出頭せず』は、敗戦後の昭和20年12月の朝、近衛氏の自決によって騒然とするこの屋敷内外の描写から始まります。
  公爵家の長男として生まれた幼少期の記録から新発見の外交書類までを広範にわたって検証し、近衛氏の新たな人物像に迫る本書は、激動の昭和史としてもかなり読みごたえのある本となっています。
  戦前の杉並は田園風景が広がる‟武蔵野の奥地”でしたが、総理大臣に就任した近衛氏が私邸を構えてから後、「荻外荘」は度々新聞紙上を賑わせることになりました。現在は国の史跡として保存され、庭園を含む一部が一般公開されています。
(成田図書館作成)

[ここまでが本文です。]

[本文の先頭に戻る。]

To PAGETOP

杉並区立図書館
杉並区荻窪3丁目40-23
03-3391-5754(代表)

©2012 Suginami city library all rights reserved.

[本文の先頭に戻る。]

[ページの先頭に戻る。]