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本の中のすぎなみ 2014年

12月

ねがいは「普通」

ねがいは「普通」

佐藤忠良/著 安野光雅/著  文化出版局

杉並区永福町にアトリエを構えた彫刻家、故・佐藤忠良さんと、画家・絵本作家として活躍する安野光雅さん。10歳以上も年の離れた二人が、創作する中で感じてきたことや、大切に思うことなど、時には漫才のように掛け合いながら楽しく語り合います。
初めての対談は、ロシアのバイカル湖を行く船上で始まります。忠良さんは終戦から3年間シベリアに抑留された経験をもち、収容所で皆が地位のない「ただの人」となった時、本当につきあっていけそうなのは、お百姓さんみたいな人だったと語っています。どこにでもいるような普通の人の中にも「本もの」がいること、そういう人々が日常で感じる気持ち、その姿を表現していこうという忠良さんの強い思いは傑作を生みだします。
対談は、忠良さんの永福町のアトリエでも行われました。そこにたたずむ二人の表情が実に柔らかく、良い関係を物語っています。
忠良さんの飾らない言葉にふれると、自然に心が温かくなります。数々の彫刻作品や素描を見つめてみたくなる一冊です。(永福図書館作成)

11月

陽だまりの彼女(新潮文庫)

陽だまりの彼女(新潮文庫)

越谷オサム/著  新潮社

中学生の頃「学年有数のバカ」と言われていじめられていた彼女をかばい、お互いに淡い恋心を抱いていた浩介と真緒。社会人となり10年ぶりに偶然再会すると、彼女は美しいキャリアウーマンに大変身を遂げていた。
急速に距離を縮めていったふたりは、周囲に心配されながらも甘い幸せな結婚生活を送っていた。けれど、日に日に体が弱っていき、不審な行動を取る彼女に、不安を覚えはじめたある日、彼女が突然姿を消した。彼女を必死に探しまわる浩介だったが、自分以外の人間から彼女の記憶が消えていたことに、愕然とする。彼女には秘密があったのだ…。
この本のなかで、当時、上井草に住んでいた浩介が真緒と善福寺公園に散歩に出かける場面がある。井草八幡宮の境内を通り、善福寺池へ出て、ベンチに座って語られる公園の描写は現実の風景そのものだ。(今川図書館作成)

10月

東京飄然

東京飄然

町田康/著  中央公論新社

本書は、41歳の男の旅の物語である。この年になって「旅」を志したものの、彼もいい大人だ。失うものが多すぎる。そこで、日常生活を乱さない「日帰り」の旅を思いつく。この散歩ともいえそうな旅をするにあたって彼は表明する「心掛けひとつで旅にも散歩にもなるのだ」。こうして彼の旅がはじまる。だが、その日はアルコールに浸り、しょんぼり帰宅する。
そして、二度目。今度は自分の原点である音楽を求めて。彼はかつての「ロック魂」を蘇らせようと考える。そして、ロックを求めるなら(彼によれば)高円寺ということになる。バンドに明け暮れた20代の記憶がこの街へと誘う。だが、行きついたライブハウスは「深海のような黒みがかったブルー」に染まっていた。彼はライブを楽しむことさえできずに会場を後にする。そして、彼はふたたび居酒屋に誘われる。こうして彼の旅は終わりを迎える。
酩酊して現実から逃避すること。それが彼にとって唯一救いとなる旅なのかもしれない。

9月

ドラママチ(文春文庫)

ドラママチ(文春文庫)

角田光代/著  文藝春秋

杉並での生活が長い角田光代さんの著作をご紹介します。
『ドラママチ』の「マチ」が「待ち」であり「街」の意味も含むこの短編集は、中央線沿線の街をステージに、時にポジティブに、時にネガティブに、自分たちに降りかかる運命を受け入れて生きていく女性たちを描いています。
そのうち表題作の短編『ドラママチ』では、付き合いは長いが結婚へ踏み切らない男女に焦点を当てています。二人が週末に不動産物件を見に行く先は荻窪。二人が歩く荻窪の住宅街の風景や商店街の描写が、街のリアルさを醸し出します。また登場人物のセリフの細部に見え隠れする緊張感が、読む者を飽きさせません。
さあ、二人が新しい生活を営むのは荻窪になるのでしょうか。そして主人公は杉並マダムになるのでしょうか。
作者自身の愛情があるからこそ映し出される杉並の風景が満載の一冊です。(方南図書館作成)

8月

西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事

西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事

広瀬洋一/著  本の雑誌社

西荻窪駅から徒歩7~8分、商店街と住宅地の中間あたりにある古本屋「音羽館(おとわかん)」の店主・広瀬洋一さんの本。
映画と音楽と本に生きているような人だという中学時代の恩師の話、大学卒業後に10年間勤務した町田市の古本屋「高原書店」の魅力的な社長の話、音羽館での勤務を経て独立した阿佐ヶ谷にある「古書コンコ堂」店主の話など、人と人との繋がりのおもしろさがたくさん詰まった1冊です。高原書店で働いていた頃に職場で出会った奥様・由佳子さんも、今は音羽館で勤務されていて、本に登場するイラストの女の子「おとわちゃん」は、由佳子さんが作った音羽館のオリジナルキャラクターだそうです。
また、西荻という場所の魅力も随所に紹介されています。中でも、本好きが集まってイベントなどを行う「西荻ブックマーク」は、参加者の豪華さに驚かされます。
実店舗を持たずインターネットだけで販売する古本屋さんも増えている中で、「お客さんと対面することが販売の醍醐味」という広瀬さんのお店・音羽館。この本を読めば、きっと行ってみたくなります。(高井戸図書館作成)

7月

中央線で猫とぼく

中央線で猫とぼく

北尾トロ/著  メディアファクトリー

猫はお好きでしょうか。街中を散歩していると、必ずと言っていいほど猫に出会いますね。野良の猫、飼い猫、大きい猫、茶色い猫。行き交う人々のように、個性あふれる猫たちとの出会いは、日常の中にひそかな潤いをもたらしてくれます。
この本は、ライターの北尾トロ氏が、猫と出会い、猫と過ごした日々を記したエッセイです。
始まりは北尾氏が学生時代に住んでいた、阿佐ヶ谷のアパート。金太郎と名付けたその猫は、気まぐれにえさを食べに来ては部屋の中で眠り込みます。しかしその一方で、何日も姿を現さなかったり、なでられることを嫌がったり、猫らしいマイペースさを発揮します。そんなつかず離れずの関係を築き、阿佐ヶ谷を離れる時もドーナツ一つで挨拶を済ませます。
その後、高円寺、吉祥寺、西荻、国分寺と住まいを変える北尾氏の傍には、常に猫の存在がありました。杉並区を走る中央線、そこに住むたくさんの猫との出会いを楽しんでみませんか。(下井草図書館作成) 

6月

菜穂子 他五篇

菜穂子 他五篇

堀辰雄/作  岩波書店

堀辰雄の「風立ちぬ」は、昨夏、スタジオジブリの『風立ちぬ』の公開を受けて再び注目を集めましたが、映画のモチーフとなったもうひとつの作品が、この「菜穂子」です。菜穂子は、不仲な母へ当てつけるような結婚をしますが、義母や夫の圭介と気づまりな暮らしをするうちに胸を病み、やがて八ヶ岳のサナトリウムに入ります。そんな彼女の前に時おり姿を現しては胸をざわめかせるのが、幼馴染の都築明でした。
彼らはしばしば中央線~中央本線に乗って、東京と八ヶ岳の間を行き来します。また、明の下宿があるということで、荻窪駅も登場します。堀辰雄自身、本作の発表の前年、妻の実家があった成宗(現在の大宮・成田東・成田西の一部)に転居していたためでしょう。プラットフォームから望む雑木林の上に茜空が広がる、といった描写からは、彼が当時目にしていた当時の杉並の様子が偲ばれます。
そこを走りすぎる汽車のように、菜穂子、圭介、明の思いは、重ならないまま流れていきます。でも、最後まで読むと、ジブリ版『風立ちぬ』のヒロインのモデルが、「風立ちぬ」の節子ではなく、この菜穂子でなければならなかった理由が、何となくわかるかもしれません。
※ここでは、堀辰雄の初期作と、晩年の連作である「楡の家」「菜穂子」「ふるさとびと」が順に読める岩波文庫版をご紹介していますが、本作は他にも様々な版で読むことができます。(中央図書館作成)

5月

東京高級住宅地探訪

東京高級住宅地探訪

三浦展/著  晶文社

日本の近代化を象徴するもののひとつ「高級住宅地」。
本書は著者による東京西郊部の高級住宅地の散策から誕生した本で、2012年時点での高級住宅地の記録ともなる一冊です。
杉並区では「荻窪」を取り上げており、大正から昭和にかけて界隈に住んでいた著名人が数多く登場しています。住宅地となる前は別荘地だった荻窪に駅が開設されたのは1891年。けれど住宅地として発展し始めたのは意外にも昭和以降だそうです。その発展の過程に名を連ねるのが、石井桃子や井伏鱒二、太宰治、与謝野晶子などの文化人。
また住宅地に欠かせない存在、商店街にも触れ、風情があり、古さと新しさが融合している商店街、第1位に荻窪教会通りが紹介されています。昔懐かしの味や手作りの味が楽しめる店、創業60年以上の老舗店などが並ぶ、魅力あふれる通りです。
爽やかな風が吹き、散歩日和が多い5月。
本書を片手に高級住宅地「荻窪」を歩いてみてはいかがでしょうか?(南荻窪図書館作成)

4月

与謝野晶子

与謝野晶子

松村由利子/著  中央公論新社

歌集「みだれ髪」でデビューし情熱の歌人として有名な与謝野晶子。ここで紹介する1冊は詩人や童話作家、評論家として様々な分野で活躍した1人の女性の姿です。作者は働く母親としての彼女に長年励まされ、また、晶子の思い描いたより良い社会を多くの方に伝え、共有したいと述べています。
常にプラス思考で日本のより良い未来を思い描いた彼女の評論は明治・大正・昭和という激動の時代では受け入れられにくかったかもしれません。戦後60年を過ぎた今日では、女性の働き方も変わり、彼女の思想は多くの人の共感を得られるのではないでしょうか。
第3章で紹介される母性保護論争については作者のわかりやすい解説と共に語られ、彼女は時代を超えた視点を持っていたのだということが伺えます。
新年度の始まるこの4月に、彼女を研究する方だけでなく、幅広い分野の方におすすめしたい1冊です。
なお、与謝野晶子は昭和2年から昭和17年に亡くなるまでの晩年を杉並区南荻窪で暮らしました。家の設計には彼女自身も携わりました。この旧居跡は地元川南共栄会商店街の強い要望により、平成24年に南荻窪中央公園から与謝野公園と改名して生まれ変わっています。園内には当時を思わせるような花や木が植えられ、与謝野寛・晶子夫妻が詠んだ歌碑が建てられています。
加えて、阿佐谷図書館で今年2月に創刊された『あさがや楽』では荻窪に居を構えた文化人として与謝野晶子を特集しています。春の文学散歩のお供にこちらも合わせてお楽しみください(この冊子は阿佐谷図書館の限定配布です)。(阿佐谷図書館作成)

3月

耕せど耕せど 久我山農場物語

耕せど耕せど 久我山農場物語

伊藤礼/著  東海教育研究所

自転車で日本各地を巡察していた伊藤礼翁は、杉並区久我山の住宅街で密かに農場を経営していた・・・。“伊藤式農法”の確立を目指す奮闘の日々を、父・伊藤整に命じられてサツマイモ栽培を始めた少年時代の思い出とともに語る。
久我山にある農場は、東農場、中農場、西農場に分けられているが、三つ合わせても13メートル×3メートル程の広さ。自宅の庭の一画にある小さな農場だが、クワイをはじめ生産している作物の種類は驚くほど多い。また生産の過程は農業日記を元に事細かく報告される。
細かいことにこだわるあまり、農場物語はすぐに本筋から逸れていってしまうのだが、その話がたまらなく面白い。「シビン考」では、シビン愛用歴58年の熟練者として使い方を伝授、その魅力を熱く語る。青虫、シオカラトンボ、ボウフラ、メダカなど、農場にやってくる小さな生き物とのかかわり合いも楽しい。(西荻図書館作成)

2月

役にたたない日々

役にたたない日々

佐野洋子/著  朝日新聞出版

本書は痛快エッセイの名手、佐野洋子さんの著作である。当時、荻窪に暮らしていた佐野さんが乳がんを患い、その手術の前後、2003年秋から2008年冬までの日々を書き連ねたものである。
頑固で濃いキャラクターの人物に遭遇すると得した気分になる佐野さん。荻窪界隈で出会う人々を好奇心むき出しで観察し描写した下りも秀逸である。
鶏 ガラを売ってくれない鳥屋の小父さん。偏屈でおっかない文房具店の親父さん、「大草原の小さな家」のローラばりにふりふりの格好の格好した老姉妹。
家の中でもテレビに世事に友人や妹の言動に怒りを覚え、毒を吐くがそのすぐ後には自己嫌悪に陥ったりと心も頭も忙しい。また、仲間と麻雀したり、韓流にはまったり、ジャガーを買ったりと変化に富む日常を過ごしながらも体や心の不調を受け入れ、病と共存しながらの日常が描かれている。
最後に本書の佐野節を紹介して終わりにしたい。
「長生きって、無駄だね。生活の向上って無駄ばっかである。」(成田図書館作成)

1月

久我山風土記

久我山風土記

長山泰介/著  久我山書店

杉並区内では一番南に位置し、世田谷区、三鷹市と隣接している閑静な住宅街というイメージの強い町「久我山」。かつて井の頭線が開通してから、農村だった地区が郊外の住宅地として様変わりし、特に戦争のあった頃の前後は人の移動が入り乱れた時代だったようだ。半世紀以上住み慣れた久我山という町を、当時撮影した写真とともにエッセイ形式で紹介する本書は、『杉並風土記』などの歴史関連書から、雑誌、チラシ、2~30年前に発行されたタウン誌などを参考としており、あくまで久我山という町を見続けてきた住人の目線から、この町の歴史を掘り下げている。
各章、それぞれのテーマが簡潔に構成されているので、どの世代にとっても久我山の歴史を知る入門書としては最適の本書。思いもかけない過去や歴史を垣間見ることで、いつもの見慣れた久我山の景色が、また一味違った景色として目に映るのかもしれません。

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